
武蔵常盤
2026.8.13
第三回 SESで身につけたのは「現場力」だった。一つの技術に安住しないエンジニアという生き方

武蔵常盤株式会社は、2026年8月で創業10周年を迎えました。
創業10周年を機に、これまでの歩みと、私たちが大切にしている考え方について書いています。
第1回では、オンプレミスからクラウド、Salesforce、そしてAIへと変化してきたIT業界と、武蔵常盤株式会社の10年間について。
第2回では、創業以来の黒字経営を支えてきた「始末した経営」について書きました。
第3回となる今回は、
「SES」
について書いてみたいと思います。
現在、SESという言葉をインターネットで検索すると、必ずしも良い話ばかりが出てくるわけではありません。
「SESはやめておけ」
「スキルが身につかない」
「案件ガチャ」
「エンジニアを右から左へ流すだけ」
そんな言葉を見ることもあります。
そう言われるようになった背景には、IT業界が積み残してきた問題もあると思います。
ですから、SESなら何でも素晴らしいと言うつもりはありません。
しかし、私自身のエンジニアとしてのキャリアは、SESから始まりました。
そして振り返ってみると、SESのさまざまな開発現場で身につけたものが、現在の武蔵常盤株式会社の考え方にも大きな影響を与えています。
それが、
「現場力」
です。
ITエンジニアへの転職
私がITエンジニアに転職したのは、ITバブルが終わった頃でした。
現在のようにAWSが当たり前に使われていた時代ではありません。
クラウドコンピューティングというものが、現在のような姿になることも、まだはっきりしていませんでした。
当時、私はJavaを学び、Sun Certified Programmer for the Java Platform、いわゆるSJCPを取得しました。
そしてSESのシステム開発会社へ転職しました。
ところが、最初に経験したJava案件は、普通のWebアプリケーションではありませんでした。
JNI(Java Native Interface)
を使う、少し特殊な案件でした。
「Javaの資格を取った。さあJavaエンジニアだ」
と思って現場へ入ったら、いきなり教科書通りではない。
今思えば、これはSESという仕事を象徴するようなスタートだったのかもしれません。
現場は、自分の都合に合わせてくれない
エンジニアが勉強するときは、
「Javaを勉強しよう」
「AWSを勉強しよう」
「Salesforceを勉強しよう」
と、自分でテーマを決めることができます。
しかし、実際のシステム開発現場は違います。
そこには、すでに動いているシステムがあります。
採用されている技術があります。
お客様の業務があります。
納期があります。
予算があります。
チームがあります。
そして、過去に行われたさまざまな意思決定があります。
自分が、
「この技術の方が好きです」
と言っても、現場は自分の好みに合わせてくれません。
その現場に入り、その現場の状況を理解し、求められている仕事をする。
SESで仕事をする中で、私はこれを何度も経験しました。
Webの時代が来れば、Webを学ぶ
その後、システム開発の主流はWebアプリケーションへと移っていきました。
私はSJC-WCを取得し、JSPを使った開発、さらにSeasar2など、その時代のJava Web開発を経験していきました。
技術は次々に変わります。
だから、
「自分はJavaエンジニアだから、Javaだけやっていればいい」
ではありませんでした。
Javaの中でも、求められる技術は変わります。
そして、そのうちJavaだけでもなくなります。
ブラウザアプリケーションが主流になる。
クラウドが登場する。
APIによるシステム連携が増える。
SPAやマイクロサービスという考え方が出てくる。
AWSが広がる。
認証も複雑になる。
Salesforceのようなクラウドプラットフォームが業務システムの中心になる。
そのたびに、
「次は何を知らなければ仕事ができないのか」
を考える必要がありました。
案件が変われば、求められる自分も変わる
SESでは、同じ会社に所属していても、プロジェクトが変われば仕事の内容が大きく変わります。
ある現場ではプログラマー。
別の現場では設計。
別の現場では調査。
さらに別の現場では、お客様や他チームとの調整が重要になる。
技術だけではありません。
開発手法も違います。
チームの文化も違います。
お客様の考え方も違います。
現場によって、
「良いエンジニア」の定義そのものが変わる
ことがあります。
その中で必要になるのが、
現場を観察する力です。
このプロジェクトでは何が重要なのか。
お客様は何を求めているのか。
自分には何が期待されているのか。
何が問題になっているのか。
自分の知識のうち、何が使えるのか。
そして、何が足りないのか。
それを考えながら、自分を現場に適応させていく。
私はこれを「現場力」と考えています。
「技術力」と「現場力」は少し違う
もちろん、技術力は重要です。
基礎的な技術がなければ仕事になりません。
しかし、
技術に詳しいことと、現場で成果を出せることは、必ずしも同じではありません。
ものすごく詳しい技術を持っていても、そのプロジェクトで必要とされていなければ、価値を発揮できません。
逆に、自分が知らない技術が必要になったとき、
「私はそれを知りません」
で終わるのではなく、
「では、どうやって理解しようか」
と動ける人は強い。
調べる。
詳しい人に聞く。
仕様を読む。
実際に動かす。
小さく試す。
そして、必要なところまでキャッチアップする。
SESのさまざまな現場を経験する中で、
「全部知っている人になる」のではなく、「知らないものが出てきても仕事を進められる人になる」
ことの大切さを学びました。
一つの技術に人生を預けない
IT業界には、その時代ごとの人気技術があります。
しかし、流行は変わります。
私がJavaを学んだ頃と、現在のIT業界では、求められる技術がまったく違います。
これからAIが普及すれば、さらに大きく変わるでしょう。
だから私は、
「一つの技術に人生を預けない」
ということを大切にしています。
Javaを捨てるという意味ではありません。
Salesforceだけをやめるという意味でもありません。
自分が持っている技術を土台にしながら、
市場や現場が変わったら、自分も変わる。
その柔軟性を持つということです。
Salesforceとの出会い
私がSalesforceを知ったのは、2007年頃でした。
当時は現在のLightning Experienceではなく、Salesforce Classicの時代です。
まだクラウドコンピューティングそのものが、今ほど一般的ではありませんでした。
しかし、Salesforceを知ったとき、
「これは単なるWebアプリケーションではない」
と感じました。
ソフトウェアを自分たちで所有し、サーバーを用意して構築する。
それまで当たり前だった考え方とは違いました。
Salesforceが掲げていた、
「No Software」
という考え方。
私はそこに、これからのITの方向性を感じました。
クラウドコンピューティングの本質は、単にサーバーを仮想化することではない。
コンピューティングそのものが「サービス」になっていく。
そう考えるようになりました。
「今の仕事」だけを見ていたら、次の仕事はできない
SESで仕事をしていると、どうしても目の前の案件に集中します。
今月の仕事。
今のプロジェクト。
現在使っている技術。
もちろん、それをきちんとやることが第一です。
しかし、それだけでは次の変化に対応できません。
私は、現場で仕事をしながら、
「この先、何が必要になるのか」
を考えるようにしてきました。
今の案件で必要だから学ぶ。
それだけではなく、
次の時代に必要になると思うから学ぶ。
この積み重ねが、後のクラウド開発やSalesforceへつながっていきました。
評価は「技術名」だけでは決まらない
日々の研鑽を続けながら現場で仕事をしていると、SESエージェントから高い評価をいただけるようになりました。
しかし、評価された理由は、
「Javaを知っているから」
「Salesforceを知っているから」
という技術名だけではなかったと思っています。
新しい現場へ入る。
状況を理解する。
必要なことを調べる。
自分の役割を見つける。
そして成果を出す。
そうした積み重ねによって、
「この人なら、この現場でも任せられる」
と思っていただけるようになる。
これがSESエンジニアにとって非常に大きな価値だと思います。
SESに問題がないとは思っていない
ここまで書くと、
「SESを肯定するための記事なのか」
と思われるかもしれません。
そうではありません。
SES業界には、改善すべき問題があると思っています。
過去には、未経験者を大量に採用し、十分な教育やキャリア形成を考えないまま現場へ送り出す会社もありました。
エンジニア自身の成長より、
「とにかく今月の案件に入れること」
を優先する。
その結果、
何年働いても市場価値が上がらない。
自分でキャリアを選べない。
案件がなくなると仕事もなくなる。
そういう経験をしたエンジニアがいることも事実だと思います。
その積み重ねが、
「SES=エンジニアを使い潰す」
という現在のネガティブなイメージの一因になったのでしょう。
だから、SESという業態だけを無条件に肯定するつもりはありません。
SESを「案件ガチャ」にしないために
私は、SESでキャリアを築くなら、
エンジニア自身も自分のキャリアを考える必要がある
と思っています。
会社から紹介された案件に入る。
終わったら次の案件に入る。
それだけを繰り返していると、確かに「案件ガチャ」になってしまいます。
そうではなく、
今回の案件で何を身につけるのか。
次は何を経験したいのか。
今の市場では何が求められているのか。
3年後、自分は何ができるエンジニアになりたいのか。
それを考える。
会社も、
「今、この人をどの案件に入れれば売上になるか」
だけではなく、
「この経験が、その人の次につながるか」
を考える。
SESをキャリアとして成立させるには、両方が必要だと思います。
武蔵常盤が経験者を求める理由
武蔵常盤株式会社では、エンジニア採用において、基本的に実務経験者を対象としています。
これは、未経験者に価値がないという意味ではありません。
私たちの会社の役割を考えた結果です。
武蔵常盤が求めているのは、
一から教えてもらうことを前提とする人ではなく、これまでの経験を土台にして、次の技術へ進める人。
オンプレミスを経験してきた人がクラウドへ進む。
Javaなどの開発経験を持つ人がSalesforceへ進む。
システム開発を経験してきた人が、AIを使った新しい開発方法へ進む。
これまでの経験を捨てる必要はありません。
むしろ、その経験があるからこそ、
新しい技術の意味が分かる。
私たちは、そう考えています。
AI時代には「現場力」がさらに重要になる
そして今、AIによってエンジニアの仕事が変わろうとしています。
AIはコードを書きます。
調査をします。
設計のアイデアを出します。
テストケースも作ります。
ドキュメントも作ります。
これまで「技術力」と呼ばれていたものの一部を、AIが非常に速い速度で補えるようになりました。
だからこそ、これからは、
「何を作るべきなのか」
「何が問題なのか」
「AIの回答は、この現場で本当に使えるのか」
を判断する力が重要になります。
これは、私がSESの現場で学んできた「現場力」と非常に近いものだと思っています。
変化できる人は強い
私がSESで学んだ最も大きなことは、
「変化することを怖がらない」
ということだったのかもしれません。
JNIから始まり、
Java Web開発へ。
クラウドへ。
Salesforceへ。
そしてAIへ。
振り返れば、ずっと同じ仕事をしていたわけではありません。
しかし、その時々で、
「今、この現場で何が求められているのか」
を考えながら仕事をしてきました。
技術はこれからも変わります。
今、最新だと言われている技術も、10年後には当たり前になっているか、あるいは使われなくなっているかもしれません。
だからこそ武蔵常盤株式会社は、
特定の技術だけを知っている人より、変化に対応できる人を大切にしたい。
そう考えています。
次回:「できること」と「やるべきこと」は違う
SESのさまざまな現場を経験すると、できることが増えていきます。
そして会社を経営すると、さらに、
「あれもできる」
「これも事業にできる」
と思うようになります。
しかし、そこで私は何度か失敗しました。
できることと、やるべきことは違う。
これはエンジニアのキャリアにも、会社経営にも共通する話です。
次回は、武蔵常盤株式会社の10年間で経験した失敗も振り返りながら、
「商売の本質を識る」とはどういうことなのか。
について書きたいと思います。